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2011年7月16日
【プレスルーム】「解答乱麻」 産経新聞7月16日(土)

「日本人の心を記した教科書」

 被災地を回り避難所だった神社に泊めていただき、各業界、教育関係者、被災者の方々から話を聞いている。各地を訪れるほどに、反共・反スターリンのノーベル賞作家、ソルジェニーツィンが1982年に来日した時、「日本には自己抑制がある。個人よりも家族、繋(つな)がりを中心とし、民族的伝統を保持し道徳を美的意識で考える希有な国」と感嘆した言葉を思い出す。

 今年は田植えを手伝いながら日本人の根気強さ、いたわり合いは2500年にわたって苗を植えながら祈り続けてきた国民性に依(よ)るところが大きいと感じた。地域に依っては学校と農家の人々の協力で“学校の田んぼ”作りが広がってきているが国の予算の裏打ちをして子供達の田植え体験が全国でさらに広がるようにしていきたい。

 日本は「継続は力」に価値を認め老舗に敬意を表するが、多くの国々では必ずしもそうとは限らない。「変化」や「ラクしてトクする立ち回り」に価値を置き、同じことの繰り返しは才覚がないと考える文化もある。ことにグローバリゼーション、インターネット時代にあっては常に疑問を発し、スピーディーな変化力を育てることを重視する教育者も多くなっている。しかし、対応力は必要であるにしても日本民族の求道的民族性を深化させることを軽視してはならないと思う。

 さて、今年は新学習指導要領に基づく新しい中学教科書の採択の年である。このところ各社の検定済み教科書に目を通しているが、平均で頁(ページ)数が25%増、数学は33%増、理科は45%増と充実してきている。47都道府県のふるさとの美しい文章や歌を載せている国語の教科書もあった。

 東北地方の頁を見ると「みちのくの 母のいのちを一目見ん 一目見んとぞ ただにいそげる」(斎藤茂吉)▽「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、うつとりねむるような頭の中に、ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります」(高村光太郎)などとある。震災後の生徒らはこうした文章の中に鎮魂や言の葉の力を読みとるかも知れない。“豊かな情操と道徳心を培う”ことや“郷土を愛する態度を養う”ことが教育の目標としてうたわれたことがこういう形で教科書となっている姿に胸いっぱいになる。

 また、宗教に関しても、一般的な教養に加え、日本人の祖先と自然と共に歩む宗教心が記されるなど充実してきている。江戸時代の俳人、北村季吟(きぎん)の「まざまざといますがごとし魂祭(たままつり)」の句を引いて、亡くなった祖先は私達をずっと守り続けてくれると感じる日本人の心を記した教科書もある。

 福島県の原子力発電所の事故で警戒区域になった地域の方が2時間の帰宅を許された中で、町に住めぬ間、土地を守ってくださる先祖のためにひまわりの種を植えたという報道を目にしたが、日本人の変わらぬ心とそれを言葉や行動でつないでいく大人の役割の尊さを感じている。

 未曽有の震災は日本人の特質、ふるさと再興、伝統的価値観を守る意義に気付かせてくれた。教科書会社により内容には驚くほどの差がある。特に歴史や公民は差が大きい。子供達のためになる教科書が今夏、選ばれるよう関係者は教科書を読み比べていただけたら幸いである。

産経ニュースでご覧いただけます。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110716/edc11071608090001-n1.htm