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2011年12月25日
【プレスルーム】「解答乱麻」 産経新聞12月24日(土)

「次世代に伝えたい宗教儀礼の意義」
 宗教におおらかな日本人はクリスマスを祝い、大みそかには大祓(おおはらい)をし除夜の鐘を聞き、新年は初詣で気持ちを新たにする。いい加減だと揶揄(やゆ)する向きもあったが、昨今はむしろ祈りへの共感性の高さこそ日本民族の特質との評価ともなっている。日本の国土と四季がこうした共存共栄を願う民族性を育んでくれたのかと感謝の気持ちが湧くほどである。

 さて、聖徳太子の時代より神仏習合、敬神崇祖の思いで暮らしてきた日本人だが、世界70億人の中で宗教的にはキリスト教徒は約23億人、イスラム教徒15億人、ヒンズー教徒9億人、仏教徒4億人などと分類されている。グローバリゼーションが進む国際社会では宗教的教養が今後ますます必要となってこよう。

 改正教育基本法では「宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は教育上尊重されなければならない」と宗教教養教育に一歩踏み込み、中央教育審議会は宗教に関する教育内容や指導方法改善の検討を答申している。こうした中で来春からの各社の中学生教科書は宗教に関する記述が充実している。日本古来の信仰、古事記の八百万(やおよろず)の神々をはじめ、祖先崇拝、天皇陛下が元日早朝より四方拝(しほうはい)をなさることや新嘗(にいなめ)祭など皇室と民間の祭祀(さいし)の深い信仰的つながりを記載している歴史教科書や、現代っ子にわかりやすく、全国でコンビニエンスストア4万5千店に対し神社は8万1千、寺は7万7千と日本が宗教心豊かなことをコラムにしている公民教科書もある。

 かつて英国はサッチャー教育改革で学力向上と心の教育として宗教教育を重視し法改正まで行った。キリスト教を中心に仏教、イスラム教、ヒンズー教、ユダヤ教、シーク教の6宗教を教えることとした。私が視察した公立小学校では、環境問題の本を校長先生が読んだ後、ロウソクをつけ“環境に良いこと、何ができるでしょう?”と児童にそれぞれの宗教によって祈ることや静かに瞑想(めいそう)する指導まで行っていた。

 それぞれの国や社会のありようは育まれてきた伝統、宗教的価値観と深く関係している。日本人は長い間自然を大切にし、敬神崇祖の心で“いただきます”“おかげさまで”“有り難い”“もったいない”とほほ笑み合い、身を慎んで生きてきた。東日本大震災の悲惨な状況の下でも人々が思いやりをもって秩序正しく行動できたのはこうした長年にわたる宗教心により育まれた民族のDNAであったと思う。

 しかし、そうはいっても商業主義、単身世帯が急増する中で宗教的情操や民族の祈りのありようが伝えられなくなっていることもまた現実である。除夜の鐘を聞きながら煩悩について思いを巡らすこともない世代は増えているし、年神さまをお迎えする新年に“数え年”が増えることを知らぬ子も多い。ハンマー投げ金メダリストの室伏広治選手にお話を伺ったとき「私は能、茶道、武道、農作業などに精通する“沈み”の感覚を大切にしています。若い選手に“腹を決めるよう”言うと、腹筋を収縮させるだけ。古典を学び、沈みの感覚をつかむことが運動を生み出す上で大切です」と言われた言葉をなぜか師走に思い出している。

 この季節、古来日本人は新年の準備をしながら清明にして深沈なる日本人の感覚を磨いてきたのではないだろうか。日本の根っこにあるこうした心、宗教儀礼の意義を次世代に伝えたい。

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