●電磁波問題に関する質問主意書
(内閣参質180第110号)
(平成24年5月14日提出、政府答弁書5月22日)
携帯電話の普及に伴い、近年、携帯電話基地局の設置数が飛躍的に増加している。基地局周辺で様々な健康被害が報告され、各地で携帯電話基地局の操業差止めを求める訴訟や設置の反対運動などが展開されている。携帯電話基地局を巡る各地の動きと健康被害などの問題点について、政府がどこまで把握し、考慮しているかについて、以下質問する。
一 電磁波問題について、平成二十三年六月十六日の参議院内閣委員会において、枝野官房長官(当時)は「予防原則が重要な課題、健康を守るという観点から積極的な対応が望ましい」と答弁し、平成二十三年十月二十七日の参議院内閣委員会において、藤村官房長官は「枝野前官房長官の答弁内容についても承知している」と答弁している。その後、政府ではどのように対応が進んでいるのか、具体的に示されたい。
(政府答弁)
一について
お尋ねの「電磁波問題」について、総務省では従前より、電磁波の健康への影響に関して、実験動物等を用いた調査や子供の携帯電話の使用による影響調査等による研究成果等について、同省のホームページ等での公表を行っている。厚生労働省では、平成二十三年七月に携帯電話からの電磁波による発がんリスク等の情報提供の在り方に関する研究を開始し、平成二十四年五月中に報告書を取りまとめる予定である。また、環境省では、電磁波の健康への影響等に関する小冊子を同年三月に改訂し、地方公共団体等への配布や同省のホームページでの公表を行っている。さらに、平成八年以降、総務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び環境省からなる電磁界関係省庁連絡会議を開催しており、電磁界の健康への影響に関する最新の知見等について情報交換を行っているところである。
今後とも、世界保健機関(以下「WHO」という。)による電磁波の健康への影響に関する検討状況等について情報の収集に努めるとともに、携帯電話からの電磁波による発がんリスクを始めとする健康への影響について得られた研究成果等を国民に情報提供する等、必要な対応を行ってまいりたい。
二 福岡県太宰府東小学校から約百メートルの距離で校舎を見下ろす位置に、携帯電話基地局の鉄塔が立っている。この小学校で、保護者が子どもの健康アンケートを行ったところ、いらいらする、体がだるい、めまいや耳鳴りがするなどの症状があり、自宅と鉄塔の距離が近い児童ほど、また、学校の教室が上の階に位置する児童ほど、これらの症状が多く出る傾向があり、基地局から発せられる電磁波によって症状が出ている可能性が高いと見られているが、政府の見解を示されたい。また、文部科学省は、この件についてヒアリングなどの調査を行っているのか。
(政府答弁)
二について
携帯電話用基地局から発射される電磁波による影響を理由として健康被害を訴える方がいることは承知しているが、電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)第二十一条の三の規定により定める基準(以下「現行の基準」という。)は、国際非電離放射線防護委員会により平成十年四月に発表され、WHOが遵守することを推奨している「時間変化する電界、磁界及び電磁界による曝露を制限するためのガイドライン(三百ギガヘルツまで)」に定められている基準(以下「ガイドライン基準」という。)と同等なものである。また、WHOが「基地局および無線技術」についての正式見解を示したファクトシートのナンバー三百四(以下「WHOファクトシート」という。)においては、携帯電話用基地局等からのガイドライン基準以下の弱いRF(無線周波)信号による健康への影響について説得力のある科学的証拠はない旨の見解が示されており、政府としては、お尋ねの「基地局から発せられる電磁波によって症状が出ている」ことについては、現時点では科学的に確認されていないものと認識している。なお、携帯電話用基地局から発射される電磁波が太宰府市立太宰府東小学校の児童に与える影響について、文部科学省においてヒアリング等の調査は行っていない。
三 福岡県太宰府東小学校の児童の保護者達は、携帯電話基地局の撤去を申し入れたが、「電磁波の強さは国の安全基準を下回っている」と断られた。しかし、国の高周波電磁波に関する基準は千マイクロワット/平方センチメートルである一方、ドイツでは同九百、ベルギーでは同二百、スイスでは同九・五となっており、欧州諸国に比べると非常に甘い基準値となっている。また、妊婦や新生児、子どもなどの傷つきやすいグループを考慮に入れていない値となっている。政府がこのような甘い基準値を変更しない理由を説明されたい。
(政府答弁)
三について
二についてで述べたとおり、現行の基準はガイドライン基準と同等なものである。WHOファクトシートにおいては、有害レベルのRF電磁界から周辺地域の住民を防護するため、各国はガイドライン基準を採用すべき旨の見解が示されており、政府としては、現行の基準が「欧州諸国に比べると非常に甘い基準値となっている」との御指摘は当たらないと考えている。
四 延岡市、熊本市及び那覇市では、携帯電話基地局周辺での市民による健康被害の調査を行っており、他の地域でも同様の調査が進められている。しかし、このような調査については、各地域の状況によって差がある。被害の拡大を防ぐためにも、発症率や症状について、国や自治体が調査の支援を行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
(政府答弁)
四について
二についてで述べたとおり、WHOファクトシートにおいては、携帯電話用基地局等からのガイドライン基準以下の弱いRF信号による健康への影響について説得力のある科学的証拠はない旨の見解が示されており、政府としては、御指摘の国による「調査の支援」については、電磁波の健康への影響に関するWHOの国際電磁界プロジェクトの動向や今後の国内外の調査研究の進展を踏まえつつ、その必要性も含め検討してまいりたい。
五 フランス、イギリス、ドイツなどでは携帯電話基地局の位置情報をネットで公開している。日本では位置情報が非公開となっているが、健康と財産を守るためには位置情報の公開が必要と考える。位置情報の公開に対する政府の見解を示されたい。
(政府答弁)
五について
二についてで述べたとおり、WHOファクトシートにおいては、携帯電話用基地局等からのガイドライン基準以下の弱いRF信号による健康への影響について説得力のある科学的証拠はない旨の見解が示されており、政府としては、携帯電話用基地局について、「健康と財産を守るためには位置情報の公開が必要」であるとは、現時点では考えていない。
六 電波法施行規則第二十一条の三では、「無線設備には、当該無線設備から発射される電波の強度(電界強度、磁界強度及び電力束密度をいう。)が別表第二号の三の二に定める値を超える場所(人が通常、集合し、通行し、その他出入りする場所に限る。)に取扱者のほか容易に出入りすることができないように、施設をしなければならない。」としているが、これはあくまでも短時間での基準値を超えた電磁波の被ばくについて規制しているものである。微量で長時間の電磁波の被ばくに対しても規制が必要と考えるが、政府の見解を示されたい。
(政府答弁)
六について
二についてで述べたとおり、現行の基準はガイドライン基準と同等なものであり、WHOファクトシートにおいては、携帯電話用基地局等からのガイドライン基準以下の弱いRF信号による健康への影響について説得力のある科学的証拠はない旨の見解が示されており、政府としては、御指摘のような規制が必要であるとは、現時点では考えていない。