メッセージ(バックナンバー)

 ロンドンにサッチャー政権の教育改革と現ブレア政権の教育の現状を調査、視察、論議してきました。
 サッチャーが政権についた時、英国は学力低下、青少年犯罪などに悩んでいました。教育内容は先生たちの自主性に委ねられ、自虐的な偏向歴史教科書を使って教育をする先生や、掛け算やスペルもまともに教えようとしない先生などさまざまでした。
 親からも産業界からも、教育を根本的に変えてほしいと悲鳴があがっていました。そこでサッチャー時代教育大臣であったベーカー上院議員にインタビューを申しこみました。「まずカリキュラムをきちんと決め、全国一斉テストをし学力の状態を学校ごとに公表。そして親に学校の選択権を与えて良い教育を受ける権利を大事にしました。学校に財務権や管理権を与えて、校長と理事会(親や地元の企業家などで構成する)のリーダーシップのもとに、学力向上、良い先生の確保などに努められる体制に作りかえました。」とのこと。
 労働党や先生の組合は反対しませんでしたかと質問すると「最初は反対していましたが、国民が支持したプログラムなので今は賛成。ブレア政権の下でも継続されています」とのことでした。

 ロンドンの中学校で以前使われていた教科書を見ましたが、イギリス植民地支配の残虐性をこれでもかとイラストで強調し、国旗やキリスト教、君主制に対する憎悪をかきたてるようなものでした。

 オックスフォード大の歴史学者であったというベーカー上院議員は「大英帝国の光と影、事実をバランス良く教えること。誇りをもつことも教えるべきで、教育に政治を取り込んではいけない。サッチャー教育改革の中には、知識、体力、そしてスピリチュアルな面を向上させるという一項目があります。」と言われました。

 お別れする時は、私の手をしっかと握り「教育改革は信念。ね!」と言われました。
 こうして、イギリスには1992教育レベル関係、1994先生養成関係、1997カリキュラム関係と次々とレベルアップ、もしくはチェックするための機構が出来ました。教育レベルが良いかどうかをチェックするために、5500人の査察官が全校をチェックして、結果をインターネット公表。ダメな場合は民間会社に委ねたり、廃校にしてしまうこともあるというから緊張感をもって教育を工夫、努力する姿勢も生まれます。
 教科書会社のレベッカさんに以前使われていた英国の自虐的な教科書を見せて、今もこのような本を作れるかとたずねますと、「自虐的なものを出版したら売れない。私はクビになるわ、バランスが大切」と苦笑しました。
 日本だけでなく韓国の教科書もこのところ自虐的になり、韓国は財閥中心で米国に従属していると否定的に書き、北朝鮮の体制を肯定的に書いていると国会で問題になっていますが、歴史教科書は学問的な事実とバランス、子どもの年齢にふさわしい配慮が必要でしょう。
 さて、イギリスに大切な政策は三つある。「教育、教育、そして教育」と演説して政権についたブレア首相は教育予算をアップさせて評判は良いようです。興味深かったのは、日本では義務教育費を国から地方へ移す議論がありますが、イギリスでは地方に渡したところ教育に使われないで他のところに回す自治体が増えて問題になり、きちんと教育費として使われるようにすべきという議論が起きています。
 ロンドンで、あまり良い地区ではないながら、トップ5%の良い教育をしているというヤーバリー小学校を訪ねました。マリーギブソン女性校長が「120年前から使っている鐘よ」と始業開始に振り鳴らす鐘を渡してくれました。校内で鐘を鳴らすと、父、母に送られた(12才までは送り迎えは親、大人がしなければならない)子どもたちが元気に飛び込んできました。
 先生は480人全校生徒の名前をすべて覚えているとのことでした。朝礼を見学させてもらいましたが、20分間3才〜7才の低学年の子たちが静かに集中して聞いていました。校長先生が童話を読み(環境問題を考えさせる)次々と質問していきます。そして最後はローソクに火をつけて、メディテーションの時間。「環境に対して何が出来るか1人1人考えてみて下さい」と静かな沈黙の時間が続きました。
 イギリスは宗教は必修科目です。教養教育として、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教、シーク教、ユダヤ教の6宗教を教え、小・中学校では毎日メディテーション(めい想)クワイエットタイム(沈黙)が設けられているとのこと。
 学力向上を課題とし、バランスとスピリチュアル面(魂、霊的なspiritual development)に目を向けての教育は、今後の日本の教育改革に大いに参考になると思いました。
 朝は朝食を食べながらの取材と議論、昼も移動中に車の中で昼食をとるというハードスケジュールでしたが、早朝にハイドパークの散歩をしました。すずかけの落葉をカサコソ、パリパリとふみしめ、子リスと並んで歩いていると、老夫婦がゆったり幾組も散歩しています。「どうぞお幸せに仲良く長生きして下さいね」心の中で祈り、祈り、すれ違いました。
 帰国すると、台風でキンモクセイの花が落ちて住宅街のあちこちに金色のじゅうたんが輝いていました。子どもたちが小さかった頃、私は近所の「キンモクセイ地図」を作ったものです。原田さん、谷川さん、坂田さんのお庭にキンモクセイ‥‥子どもたちはキンモクセイの木の下の金色じゅうたんの上で踊り「郵便屋さんの秋の風」と風が運ぶキンモクセイの芳香に鼻をヒクヒクさせていましたっけ。

平成16年10月13日 山谷えり子

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