メッセージ(バックナンバー)

 先日、生命科学者の中村桂子さんが、堤中納言物語の「虫愛づる姫君」のお話がお好きだとおっしゃられました。
 ふつうの人は蝶をキレイと思うけれど、この姫君は毛虫が大好きで、いつもじっと見つめて、いとしんでいる。“生命の本質を見抜いているからではないでしょうか”とおっしゃられました。
 そういえば我が家の末娘も幼い頃、なめくじや、ぬめぬめした虫が大好きでした。幼稚園の帰りもじっといつまでも見つめて動きません。私がせかせても、気にせずにじっと見つめて“ゆたあっとして、いいねえ、いい気持ち”とゆたあっと笑いながら言うのでした。あの時の雰囲気と笑顔には不思議な重さがありました。
 そんなわけで改めて堤中納言物語を読み返してみました。
 姫君は、親やお仕えする人々が気味悪がっても、「世間の人々が花よ蝶よともてはやすのは、軽薄でおかしい。人間には物の本体を追求する心がある。その心こそ立派なの……毛虫の思慮深い動きこそいいものよ」と答えます。
「人々の、花よ、蝶よとめづるこそ、はかなくあやしけれ。人はまことあり、本地尋ねたるこそ、心ばへをかしけれ」
「かは虫(毛虫)の、心深きさましたるこそ心にくけれ」
と言うのです。なかなかの理論家です。
 この姫君は、眉も整えず、髪の毛をかきあげて、耳にはさんでかいがいしく毛虫の世話にはげみます。親は困惑し“いとあやしく、さまことにおはするこそ”と思いますが、姫君は“人はすべて、つくろふ所あるはわろし”と眉を整えようともしません。
 この姫君は、その後どう育っていったのか、興味のあるところではありますが、生命の本質、本体を追求して愛づる思いあふれる女性は、眉をそって、蝶のひらひらだけを美しいと感じる女性より、深くて面白いようにも思えます。
 さてさて、みなさまは毛虫と蝶とどっちが美しいと思われますか?

平成17年7月5日 山谷えり子

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