メッセージ(バックナンバー)
 文教科学委員会の視察で六本木に出来た国立新美術館に行きました。建物は亡くなられた黒川紀章さんのデザインで、フュルメールの「ミルクを注ぐ女」の展示中ということもあって、土、日は一日に1万人近い人々が足を運ぶということです。
 静かなあたたかさに包まれた美術館で、多くの人々が見入っている姿に、日本はやはり教養と文化を大切にする、品の良い国と国民だと改めて納得し、嬉しくなりました。
 その後、人の待ち合わせで近くの「東京ミッドタウン」に行きました。ここもクリスマスの飾りの中を多くの人々が行き交っています。20年ほど前、この近くに住み、東京ミッドタウンのあるところは、毎日のように乳母車を押して子供の育ちを祈り、子供が成長するにつて、ブランコやザリガニとりを子供たちとした場所でした。
 六本木から近いのに、「ひのき町公園」といわれたその公園は、木々の陰影、丘や池やくぼ地がある素朴な自然の匂いに包まれた空間でした。そこがまるでアミューズメントパークのよう作りかえられてしまっているのです。
 何だかポカンとしてしまいました。不思議な喪失感と孤独感にお腹の底からメタリックな乾いた笑いがクククク、ククククと突きあげてしばらく止まりませんでした。
 ここに確かなスローライフ、私たちの家族の生活があったのに、まるでバックトゥザフューチャーの映画で、主人公のマイケルJ・フォックスが過去と未来を行き来して、ポカンとしたかのように…。
 そこに確かに場所があるのに、そこにちっともあの時の場所がない感じに圧倒されました。
 帰宅して息子にこの話をすると、1ヶ月前にそこにやはり足を運んだという彼は「ああ、僕も全く同じ。バックトゥザフューチャー状態で、乾いた笑いがこみあげて、母さんと同じような状態になったよ。この10年、20年の場所と時間が、どこかにスッポリと失われてしまっているのに、そのことを家族以外の人には決して理解してもらえないという不思議さ…」
 フェルメールの「ミルクを注ぐ女」は17世紀の女性を2007年の今の時間に、芸術の力により生き続けさせています。
 人々の祈りや愛がつづられた暮らし、その一瞬一瞬を永遠に普遍的なものとして共有化することに成功するのは、何と難しいことであり、芸術の神秘の力のすごさでありましょう。

平成19年12月6日 山谷えり子

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