| 福島県郡山市に出張しました。福田内閣で官房副長官をなさった岩城光英さんの講演会です。若いお二人の男性が講演に先立ち地元をご案内下さいました。 |
| 第13代成務天皇の御代に勅命によりお祭りされた安積国造神社に参拝。郡山駅の近くけやきや銀杏の森の中です。 |
| 秋祭りは、大層にぎやかとか。また東北のお伊勢さまとして尊崇されている開成山の中にある開成山大神宮にも参拝いたしました。今年の三箇日の日本の神社・仏閣への初詣は9939万人と史上最高の人出。今月末には1億人を超えていると思います。ご神域の中にさまざまな願いをこめておみくじが結ばれている中を全国を歩ける幸せに感謝しました。 |
| 三春町まで行って、自由民権記念館の資料を見て回りました。多くの犠牲をはらって、今日があることに胸いっぱいになります。 |
| 三春は三春人形や三春駒など郷土玩具や道具、生活用具など素晴らしい手づくりの歴史のある街です。90才になるおばあちゃまが、手仕事をしていらっしゃる店先でうっとり仕事を見とれていると、そのおばあちゃまが私たちにお茶を入れて下さいました。あったかいほうじ茶。まさに日本の底力です。 |
| 雲がかかって安達太良山(あだたらやま)は見えにくかったのですが、車を半日走らせていただき、美しい日本の風景の中で地域再生を願いました。 |
| 詩人高村光太郎(1883〜1965)の妻智恵子はこの近くで育たれた女性です。「智恵子抄」は、私の少女時代の愛読書。あんなに激しく愛され、愛したいと夢みたものでした。 |
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| 高村光太郎『智恵子抄』より |
| 樹下の二人 -みちのくの安達が原の二本松松の根かたに人立てる見ゆ- |
| あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。 |
| かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、 |
| うつとりねむるやうな頭の中に、 |
| ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。 |
| この大きな冬のはじめの野山の中に、 |
| あなたと二人静かに燃えて手を組んでゐるよろこびを、 |
| 下を見てゐるあの白い雲にかくすのは止しませう。 |
| あなたは不思議な仙丹(せんたん) を魂の壺にくゆらせて、 |
| ああ、何といふ幽妙な愛の海ぞこに人を誘ふことか、 |
| ふたり一緒に歩いた十年の季節の展望は、 |
| ただあなたの中に女人の無限を見せるばかり。 |
| 無限の境に烟るものこそ、 |
| こんなにも情意に悩む私を清めてくれ、 |
| こんなにも苦渋を身に負ふ私に爽かな若さの泉を注いでくれる、 |
| むしろ魔もののやうに捉へがたい |
| 妙に変幻するものですね。 |
| あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。 |
| ここはあなたの生れたふるさと、 |
| あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒庫(さかぐら)。 |
| それでは足をのびのびと投げ出して、 |
| このがらんと晴れ渡つた北国の木の香に満ちた空気を吸はう。 |
| あなたそのもののやうなこのひいやりと快い、 |
| すんなりと弾力ある雰囲気に肌を洗はう。 |
| 私は又あした遠く去る、 |
| あの無頼の都、混沌たる愛憎の渦の中へ、 |
| 私の恐れる、しかも執着深いあの人間喜劇のただ中へ。 |
| ここはあなたの生れたふるさと、 |
| この不思議な別箇の肉身を生んだ天地。 |
| まだ松風が吹いてゐます、 |
| もう一度この冬のはじめの物寂しいパノラマの地理を教へて下さい。 |
| あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。 |
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| あどけない話 |
| 智恵子は東京に空が無いといふ、 |
| ほんとの空が見たいといふ。 |
| 私は驚いて空を見る。 |
| 桜若葉の間に在るのは、 |
| 切つても切れない |
| むかしなじみのきれいな空だ。 |
| どんよりけむる地平のぼかしは |
| うすもも色の朝のしめりだ。 |
| 智恵子は遠くを見ながら言ふ。 |
| 阿多多羅山の山の上に |
| 毎日出てゐる青い空が |
| 智恵子のほんとの空だといふ。 |
| あどけない空の話である。 |
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| 平成21年1月24日 山谷えり子 |