2005年度活動報告

山谷えり子質疑 参議院少子高齢社会に関する調査会
平成17年2月16日(水曜日)
 
平成十七年二月十六日(水曜日) 午後一時開会
参考人
国立成育医療センター名誉総長  松尾 宣武君

- 山谷えり子君
 自由民主党、山谷えり子でございます。
 国立成育医療センター名誉総長の松尾宣武さんにお話を伺いたいと思います。
 小川参考人にお伺いしたいと思います。
 私、三人の子供を育てながら母性というのはだんだんわき出てくるものだなということと、伝承の母性というか、そういうものが大切だなということを感じました。人間の文化とは子育ての文化と言ってもいいというふうに思うんですが、今労働者としての親を支援するプログラムは充実してきておりますけれども、その一方で保育者としての親の支援ということがやっぱりバランスの中で見落とされてきているというふうに思うんですね。
 松尾先生はジェンダー論とこの乳幼児の育児のことを書いていらして、レジュメの中に、ジェンダー論のことは余り今お話にはなさいませんでしたので、ちょっと読ませていただきますと、ジェンダーフリー、これは和製英語で、社会的、文化的に作られた性を解消しようというジェンダーフリー社会の推進に見直 しの機運が高まりつつあることは、当然のこととはいえ誠に喜ばしい。乳幼児期の子育てにおいて男女の役割の違いは明瞭であり、生物学的性差に基づく。母性 は授乳、育児行為という技術的側面にとどまらず、母子の心身の一体化、母子のきずなを介し、子供の自己形成に深くかかわる。父性がこの母性の役割を代行、 分担することは極めて困難である。乳幼児期における母親との人間関係によって形成される。この事実は人の育児における核心的テーマである。性差は疑いなく存在する。男女の性差、男らしさ、女らしさが人為的な社会的身分にすぎず、生物学的属性でないとする主張は学問的根拠に乏しい。長時間保育や病児保育の要 望など育児をなるべく他人任せにしようとする親がますます増える一方、多くの若い母親は育児行為が父親と母親とによって均等に分担されるべきものと考えて いるように見える。母性の喪失、父性の未熟、母性と父性の役割分担の混乱はどこまで続くか、その行き先は定かでない。母性は母性を支える社会的システムな しには機能し得ない。育児における父性と母性の役割分担についても両性のコンセンサスは得られていない。父性の包括的研究が強く求められるゆえんである。 子供たちに帰るべき家を取り戻すため、ジェンダー議論が深まることを期待したいと。まあ抜粋ですけれども、要約で読ませていただきまして、私は大変共感、 感銘を受けました。
 といいますのも、三歳までに脳が発達するというような子供白書もありますし、先ほど先生がおっしゃったアメリカとかイギリスのいろいろな乳幼児のどういう育てられ方をしたかというその後のフォローの研究などもあるわけですが、余り日本ではその辺が発表されていなかったり議論がタブー視されているような状 況だというふうに思うんですね。べったり三歳までお母さんがくっ付いていなければいけないというふうには私は思っておりませんけれども、やっぱりある程度 一緒にいないと、やっぱりお互いのきずなというか子供の育ちがうまくいかないのではないかというふうにも考えておりまして、無批判に長時間保育とかゼロ歳 児保育を増やしていくべきではないだろうと、就業形態の多様化とか育児休業を保障していくべきだろうというふうに思っているわけでございますけれども、子供たちは次の時代親になる人たちですから、育児、家族の営みのもったいないほどの神聖さやすばらしさをとにかく伝えないと、次の世代、未来が奪われてしまうというようなふうに考えております。
 そこで、ジェンダーフリー思想のおかしさといいますか、男女同権とは何の関係もないですね、その思想の乱暴さといいますか空想的といいますか、その辺の御説明をもう少ししていただきたいのと、母性支援の在り方、とりわけゼロ歳児あるいは三歳児までの支援の在り方について何か御示唆があればお伺いしたいと 思います。
- 参考人(松尾宣武君)
 男と女の違いというのは、乳幼児期から遊びの違いということを一つ取り上げても非常に歴然としておりまして、数年前、二十一世紀の縦断家庭調査というのを 厚生労働省が開始いたしましたが、その成績でも一歳六か月のときに性差は明らかなんですね。ですから、ジェンダーフリーという考え方は事実と全然反していると思います。
 やはり生活の様々な面で男と女が協力して成り立っているということを経験させてあげることが非常に大事だと思います。特に、家庭の中で夫と妻がどういう ふうに協力しているか、保育園に行ったときに男の先生と女の先生はどういうふうに協力しているか、あるいは小学校へ行ったときに自分の上級生が男女でどういうふうにかかわっているかという、男と女という立場でどれだけ人間が豊かになっていくかということを経験で知っていくということが一番大事ではないかと 思うんですけれども。例えば、幼稚園ですと、ほとんど女の先生になってしまったとか、小学校の教員としては女性が非常に多いというふうに、やはり男が半 分、女が半分という、そういう社会形態が将来我々が目指す社会ではないかというふうに思います。
 そこの文献にちょっと付けたんですけれども、最近マウスで見付かった育児遺伝子というのがございまして、これは雌のマウスでしかその育児遺伝子は発現し ないんですね。雄のマウスでは発現しない。この遺伝子を遺伝子操作によって欠損させますと、その雌マウスは子供を育児できなくなるということが分かっております。恐らく人間も哺乳動物の一種でありますので同じような遺伝的な基盤があるんだと思うんですけれども、そういう遺伝子を調節している機構というのが分かりますと母性支援というのもより科学的になる可能性があるんじゃないかというふうに思います。
 なぜ男女の性差とか役割というのがこんなに否定されてしまったかということをたどっていきますと、厚生労働省の厚生白書にもそういうことがうたわれておりまして、平成十年度の小泉総理が厚生大臣でいらしたときに出された厚生白書というのが三歳児神話を、まあ三歳児神話というのは使う人によって非常にあいまいな内容になると思うんですけれども、母性の価値というのを軽視するような内容になっているのを非常に私としては小児科医として遺憾に思っております。
 さらに、最後に付け加えますと、母親だけに育児をゆだねるというのは、そういう考えとは全く別でありまして、母性をどのように支援していくかというのは 非常に大事で、今お産をなさった産後のお母さん方を見ておりますと、うつ状態になられる方が非常に多いんですね。これは育児の中で孤立してしまっていると いうことが大きいと思うんですけれども、妊産婦の支援というのは産婦人科のレベルでかなりできる分野だと思うんですけれども、産婦人科医が急速に今減って いるという現状がございまして、母性支援というのもままならないというような状況にございます。ですから、お金を投ずるというよりも、やはりカウンセリン グであるとか、本当に子供を育てる重要な時期に少なくともリスクの高い母親に対して支援をするということは非常に大事だというふうに思います。
- 会長(清水嘉与子君)
 よろしいですか。どうぞ。
- 山谷えり子君
 産後のうつ病、マタニティーブルーについて、私は、外国人がたくさん産む病院と、それから日本人の病院とで、二か所で子供を産んだんですが、外国人がたく さん利用する病院では、お医者様が夫に向かって、奥さんはマタニティーブルーになるかもしれないからしっかり支えるんだよと、もう三分の一とも三分の二と も言われる人がマタニティーブルーになるんだというようなことを指導しているのが非常に印象深かったです。
 それで、日本の場合は、里帰りお産とかありましたし、あるいはお産婆さんというのが非常に伝承の、母性に対して伝える役割を果たしていたと思うんです ね。今、乳腺を開くための乳房のマッサージのサービスすらありませんですしね、その辺を是非、産婦人科、小児科学会が連携してプログラムを提言していただ きたいと思います。
- 参考人(松尾宣武君)
 私の娘がたまたま日本の病院とアメリカの病院でお産をしまして、システムとして日本のは産科医療とは言えないというふうに厳しいコメントをもらいましたけれども、先生のおっしゃる点は非常に重要な点で、是非推進さしていただきたいと思います。
- 会長(清水嘉与子君)
 それでは、山本孝史さん。
- 山本孝史君
 ありがとうございます。
 今日はありがとうございました。長年母子家庭の方々へのかかわる活動をしてきました中で、母性を発揮したいというか、是非こういうふうに育てたいと思っ ても、ささやかな望みもかなえることができない、非常に依然として母子家庭への偏見が強いということだけはまず申し上げておきたいというふうに思います。
 今日の質問は、済みません、松尾先生に二点お伺いしたいんですが、一点は、今のその出産期の話ではございませんが、出産期の経済的な費用が非常に掛かる ので、それを、今健康保険で三十万円等々ございますけれども、もう少し別途の手だてを考えた方がいいのではないかという意見があります。実態としてどうなのか、あるいはどういう手だてが望ましいと思われるのか。今のマタニティーブルーの点もそうかもしれませんが、そこで教えていただきたいと思います。
 もう一点、今日お書きいただいていてお触れになりませんでした生殖補助医療の点について、「生殖補助医療の無秩序の拡大は、通常の産科医療や新生児医療 を窮地に陥れる可能性が高い。」と書いておられます。実態としてどういう危惧を持っておられて、この点についてどういう対応を望まれておられるのか、補足 をしていただければと思います。よろしくお願いします。
- 参考人(松尾宣武君)
 健康保険適用の医療行為をどこの範囲に定めるかというのは非常に難しい問題でございますが、今先生が御指摘のように、正常の出産というのは健康保険の適用外でございます。
 ただ、実態的には、健康保険組合から後から払戻しというのが来て、実質的に支払われるお金は少ないというふうに理解しておりますけれども、これを健康保 険の適用にするかどうかというのは、お産が正常な現象であるというふうに、病気ではないというふうにとらえられているものですから、健康保険の適用全体を 変えなければならないということで今まで手が付けられなかった問題であるというふうに理解しております。私ども小児科医としては、当然これも健康保険の中に含めていただきたいというふうに個人的には思っております。
 それから、生殖補助医療でございますが、これは非常にリスクの高い医療でございまして、このリスクについて社会的認識が非常に不足しているということを危惧してまいりました。
 対策といたしましては、法的な規制を付けるということが一つ大事なことでありますし、それから関係する人々のコンセンサスを得るということが非常に大事 なことでございますが、生殖補助医療部会について最終答申を我々いたしましたが、現在、国会審議には至っておりませんので、是非先生方のお力で御審議に 入っていただきたいと思います。
 生殖補助医療が抱えているリスクは、一番大きな問題は超未熟児の出生が非常に増えるということでございまして、超未熟児というのは、あっ、極小未熟児で すね、千五百グラム以下の新生児を言いますけれども、全出生の〇・六%という数でございますが、これがかつては〇・三%だったんですけれども、じわじわと上がってまいりまして、現在〇・七%を超えております。このために、日本じゅうの病院の新生児を扱うNICUという施設は満杯になっておりまして、 NICUが満杯になるだけではなくて、その後の後方医療施設が足らないということで大変今混乱しております。
 デンマークはこの生殖補助医療を健康保険適用にした国なんですけれども、その結果起きましたことは、生殖補助医療による出生が三倍に増えたということがございまして、日本の今の体制で生殖補助医療を推進するということは、周産期医療、新生児医療が非常に混乱するということがもう明らかでございますので、 これはすべてのシステムをバランス取ってやっていくということが必要です。
 生殖補助医療というのはお金がもうかる医療でございまして、アメリカではこれは巨額な富を生み出す産業というふうに言われておりますし、ワイルドウエス トと、秩序なき西部の状態だというふうに人は表現しておりますけれども、日本にこのワイルドウエストの状態をもたらしてはいけないというふうに思います。 是非先生方のお力をいただきたいというふうに思います。

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