衆議院財務金融委員会での山谷質疑 |
平成15年3月18日 |
|
財務金融委員会 平成十五年三月十八日(火曜日) |
財務大臣 |
塩川正十郎君 |
国務大臣(金融担当大臣) |
竹中 平蔵君 |
(株式会社富士通総研理事長) |
福井 俊彦君 |
|
|
|
 |
質疑の模様をストリーミングでご覧いただけます。 ※再生にはrealplayerが必要です。無償ダウンロードはこちら |
|
|
-小坂委員長 |
次に、山谷えり子君。 |
-山谷委員 |
保守新党、山谷えり子でございます。 |
多くの方々がさまざまなことをお聞きになりました。福井次期総裁のお考え、意気込み、伝わってきた部分とまだあいまいな部分がございます。 |
日銀は、物価の安定を金融政策の焦点とし、適正成長率達成という目的には特に明確な焦点を当てておりません。アングロサクソン系諸国の多くでは、物価の安定と適正な経済成長率の達成を中央銀行の金融政策の目標として挙げております。しかしながら、日本での法律的定義はそうであるにせよ、経済成長率が適正成長率から大きく外れた場合は物価と資産価格のインフレやバブル、デフレが起こるわけで、つまり、日銀は、物価安定を日銀法第二条で理念として明示しておりますが、実際には経済成長率を適正レベルに維持するよう努力しなければならないと考える。 |
福井次期総裁のお答えをずっと聞いておりまして、十分そのことを意識していらっしゃるというふうに思いましたけれども、副総裁を長く務められていたときも、この辺のことはどのような思いで受けとめていらっしゃったんでしょうか。 |
-福井参考人 |
中央銀行が物価の番人として物価の安定ということに最重点を置いていろいろな政策を考えていく、これは一貫性のあることでございますけれども、なぜそうするかということになりますと、結局のところ、この日本という国の国民経済が持っている潜在成長能力をフルに発揮する、そのためにはやはり基軸になるものは物価の安定だ、そういう意味でございまして、潜在成長能力をフルに発揮させるという点について中央銀行は無関心ではおられないということでございます。 |
プラス、最近の状況を考えますと、その潜在成長能力そのものが陰りが見えてきている、あるいは少し落ち込んできている。潜在成長能力をこれから強くしていくという部分についても目を通していく必要がある、そういうふうに考えております。 |
-山谷委員 |
福井参考人は金融のプロフェッショナルでいらっしゃいまして、また、資産デフレに強い関心をお持ちでいらっしゃる。 |
一九八七年以降、日銀は、マクロ経済を適正成長率レベルに維持することに失敗しまして、最初は極端な資産バブル、その後は長期デフレ状態を発生させました。まあ日銀だけが悪いというわけではございませんけれども、この辺をどういうふうに反省、総括なさっていらっしゃいますでしょうか。 |
-福井参考人 |
八〇年代の半ば以降が戦後の日本経済の歴史の中で大きな転換点であった、しかもそれは、後々になって振り返ってみてより明確にそのことが言えるようになったということだと思います。 |
しかし、実際に、八〇年代、プラザ合意が境でございますが、その後の状況をずっと、日本銀行の中の、当時私は職員でございましたけれども、仕事をしておりました立場から見ておりまして、経済の大きなパラダイムシフトがこれほどのスケールで起こったということが一〇〇%完全に認識できていたかというと、そこは確かに不十分な点があった。 |
やはりあのころは、引き続き相当の成長が可能ではないかという世間の認識、それを妨げているのはプラザ合意以降の極端な円高だと。日本は黒字がたまり過ぎて貿易摩擦が起こる、それから為替相場が極端に円高になる、そうなると、持てる力が発揮できなくて、デフレと申しますか、経済に対して不況圧力が及んでくる、これを取り払うためには内需拡大ということにうんと焦点を当てなければいけないんではないか、こういう政策的な枠組みについて、これはもう国是ともいうぐらい強い意識が形成されておりました。日本銀行もその中にしっかり位置づけをみずから置いていたという点が、やはり、大きなパラダイム変化についての認識が、十分目が行き届いていなかったという点はあると思います。 |
しかし、あのころから、日本銀行もそうですが、やはり世の中の識者の多くの方は、内需拡大ということにウエートを置くにしても、一方で市場開放、規制緩和ということが非常に重要だと。構造改革ということが言われ始めたのはそのころからでございます。だから、大きなパラダイムシフトを人々が全く感知していなかったわけではない。しかし、それよりも、やはり内需拡大に焦点を当てたい、この意識でもう一〇〇%統一していた。 |
その結果がバブルの発生ということにやはり私はつながったと思いますけれども、バブルの発生を前もって認知することがなかなか難しい。これは言いわけではなくて、日本の経験を十分参考にしたアメリカのグリーンスパン議長ですら、アメリカのハイテクバブルについて、やはり事前の認識は不可能であったと議会証言をしておられます。日本銀行にとって決してこれはエクスキューズにならないことで、今後も起こり得ることについてこのエクスキューズを利用しようなんという考えは毛頭ありませんけれども、八〇年代後半にさかのぼっていえば、確かに、バブルの認識は、十分行き渡って見通すには眼力が不足していた、あるいは不可能なことであったというふうに思います。 |
世の中の人すべてが収益を上げていた、だれ一人ロスを出していないというのはやはりバブルなんでしょうけれども、しかし、みんなが収益を上げている状況を中央銀行の力で全部封じ込めることができるかどうかという非常に大きな宿題があのころあったんだろうというふうに思います。 |
-山谷委員 |
先ほどからさまざまな方が、マネタリーベースはふえているのにマネーサプライの方がどうもそういう形ではついていっていない、おかしいじゃないかというような話がありますが、デフレギャップ、先ほども出ましたけれども、不良債権の処理の問題の解決も、このデフレギャップがどのぐらいあってどう解消していくかということに詰まる部分もあるわけでございますけれども、デフレギャップはどのぐらいあるというふうにお考えでございましょうか。 |
-福井参考人 |
日本銀行に着任しておりませんので、日本銀行がデフレギャップをどういうふうに計算しているかということはまだ存じておりません。 |
ただ、民間のシンクタンク等がいろいろ試算しておりますが、その中で幾つか代表的なものを見ますと、GDPの大体四、五%ぐらい、金額でいうと二十五兆円ぐらいというふうな計算をされているところがございます。その計算が正確かどうかは別にいたしまして、現在におきましてもなおかなり大きなデフレギャップがあるということは事実だというふうに思います。 |
ただ、一つだけ注意しなければいけませんのは、計算上のデフレギャップと実際の、実際のデフレギャップという言葉は表現が適当でないんですけれども、言ってみれば供給能力の方が多過ぎるという話でございますが、その供給能力というのは、企業が過去に設備投資を行ったその設備の残高でございます。これはさまざまなものがございまして、一方で技術革新が急速に進んでいるわけですから、技術革新の進歩と照らし合わせて今持っている過剰な設備の残高を見ますと、技術進歩が速いものですから、設備残高は新しく見えてもどんどん陳腐化しているという部分がございます。陳腐化している設備を稼働させても、新しい経済のダイナミズムには通じない。したがって、新しいダイナミズムに通ずる設備残高というのは二十五兆円よりも少ないかもしれない。 |
そうしますと、二十五兆円のうちもう陳腐化した設備に張りついている部分は、早く償却をして資源を次の新規の投資に振り向けていく、こういう作業も必要かなというふうに思っています。 |
-山谷委員 |
日本経済センターで二十五兆円、それから、けさ内閣府と日銀の方に聞きましたら、四十兆円ぐらいではないかというお答えがございました。そうしますと、処方せん、カルテも大分変わってくると思いますし、また、マネタリー・トランスミッション・メカニズムの使い方なんかもかなり違ってくるというふうに思いますので、先ほどから、資産価格チャネルや為替レートチャネルをいかに使うかというようなお考え、大枠では伺いましたけれども、ぜひそのような積極的なチャネルを使いつつ、また、国民に見える説明責任を果たしつつ、それでこその日銀の独立性でございますので、新しい日銀の総裁、副総裁の体制に期待したいと思います。 |
ところで、五年前、接待不祥事の監督責任をとり、世間に迷い出ると言い残されて副総裁を辞任なさいましたけれども、迷い出た世間はいかがでございましたか。 |
-福井参考人 |
今でも幾らか迷っているかもしれませんけれども、大変民間の世界は私にとりましては刺激的な世界でございました。これだけ日本全体が不況の中、閉塞感の中、経済は流動性のわなに陥っている、マクロ的にはそう思われておりますけれども、実際、産業界の一人一人の方々、あるいは、いわゆる産業界というエスタブリッシュされた世界だけでなくて、これからフロンティアを築いていこうという、より若い世代の方々の活力は相当なものがあると私は感じ取っています。 |
中央銀行のあの堅牢強固な建物の中に入って、これから情報遮断になるということを一番恐れておりまして、やはり世の中の第一線を走ろうとする人たちと対話を続けながら、私の感性を新しくしながら、これからの仕事をさせていただきたいというふうに思っています。 |
-山谷委員 |
森永総裁は開かれた日銀とおっしゃって、三重野総裁が民間企業との接触の大切さをおっしゃって、また、日銀法が改正になりましたときは、日銀の金融政策決定会合、私、随分議事録を取り寄せて読んでおりましたけれども、金融緩和の主張とか、インフレ目標の主張とか、外債購入の主張とか、いろいろあって、採決も割れることが当たり前というような状況でございました。 |
しかしながら、二〇〇二年、この一年間は十五回すべて全員一致だったという、何かまた昔の法王庁に戻っちゃったんではないかというような雰囲気もございますので、ぜひ、迷い出た世間の風をまた体じゅうにいっぱい膨らませて、新しい体制をおつくりいただきたいというふうに思います。 |
以上です。ありがとうございました。 |
-小坂委員長 |
これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。 |
参考人各位におかれましては、御多用中のところ御出席をいただき、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。 |
|
< < 平成15年度活動報告インデックスへ戻る |